靴の修理屋さん 

 おじさんの名前は、サンヴェルさん。この道40年のベテラン靴職人だ。2人の息子と1人娘を授かり、11人の孫に恵まれている。おじさんは3畳一間のカセットの中で仕事をしている。容姿は英国歌手のスティングに似ている。作業の合間にタバコをくゆらせるその姿もまた、少しクールでかっこいい。
ちいさな店内の手作りの棚には、様々な材質、そして色とりどりの靴が所狭しとひしめき合って並んでいるが、それを眺めながら、靴を履いている人たちを想像するのも、また楽しい。
今回、わたしはお気に入りのスニーカー修理でこの店を訪れた。

 おじさんは、ペットボトルを再利用した、黄色と透明の2種類の接着剤が置かれている机の前にいつものように座り、お手製の研ぎ立てナイフで器用に靴底に合わせて部材をカットしていた。
入り口すぐ横のベンチに座り、順番を待っていると、小柄なおばさんがどこからともなく現れた。軽く挨拶をするとおばさんはニコニコと話し始めた。仕事中のおじさんも会話に加わり、何か2人でわたしに向かって説明し出した。おばさんは、アルメニア語を使って、手を広げたり、指でベンチをさしたり色々ジェスチャーをしてくれるのだが、さっぱり意味が解らない。そのうちに新しいお客が入ってくると、いつのまにかおばさんは消えていた。後で知ったが、そのおばさんは、奥さんだった。

 この小さな靴修理屋を初めて訪れたのは、雪の降る2月。プースキン通りの駐車場スペースに真っ白い箱型の建物が視界に入った。小さな窓から色とりどりの作品が見え、アーティストのアトリエ?とわくわくしながら近づいてみると、色鮮やかな靴や靴ひもが並ぶ修理屋さんだった。いっぺんでこの店の雰囲気が気に入り、急いで家に帰って1足しか準備してこなかった冬用ブーツを持参して、修理をお願いした。口数少ないおじさんは、ブーツの皮をほめてくれた。おじさんは、予想以上に丁寧に仕事を終え、頼んでいないのに、雪用にとギザギザした靴底も付けてくれた。修理代金1000ドラム。とても温かい気持ちになって帰宅した。

 ぼーっと、初めてこの店を訪問した時のことなどを思い出していると、またどこからともなく、おばさんがニコニコと現れた。その人懐こい笑顔から、職人気質のおじさんを一身に支えてきたおばさんの優しい人柄が伝わってくる。そして笑顔いっぱいに、「これをどうぞ。」と嬉しそうにちいさな包みを手渡してくれた。
 それは、わたしが2月から探していた、使い古しの皮の手袋だった。
おばさんは、わたしがお店に置き忘れた皮の手袋を、冬の間もずーっと大切に自宅で温めてくれていた。春が訪れて、夏になっても大切に。。。わたしはその心遣いに、思わず目頭が熱くなった。そしてとても嬉しくなって、小柄なおばさんを思わず抱きしめた。「ありがとう!」と何度も繰り返しながら。

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